Viano Vorte

1. Viano Vorte (1:00:08)



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第108作めのソロアルバム、その名も、"Viano Vorte"。


ピアノの古名"Piano Forte"を元に創られた造語がタイトルになっています。

『12台のピアノが発する音で構成された火星地表面のマリネリス峡谷。そこを力強く、超高速で縦横無尽に駆け巡る龍笛のようなフィードバック。吹き抜ける風。突き刺す光。
鍵盤に顔をすり寄せ、鼻歌を歌い、愛用の椅子をギシギシと軋ませて、ピアノと交感するグレン・グールド。版木に顔をすり寄せ、軍艦マーチを歌い、彫刻刀でギリギリと軋ませて、板画と交感する棟方志功。その取り組む身体の姿勢だけでなく、何かに取り憑かれた魂の姿勢、その激しさと敬虔さが美しい。
そして本作に於いて、私は波形データに顔をすり寄せ、吹き抜ける風と突き刺す光を歌い、トラックパッドをギジギジと軋ませて、コンピュータと交感した。
アルバム"Piano Genome"12台分の仮想ピアノと、仮想ギターを、仮想マリネリス峡谷で鳴り轟かせた。』(JINMO)


JINMOによる仮想ピアノ+仮想ギター作品。

この仮想ピアノの概念については、アルバム"Piano Genome"リリース時にJINMOが言及していますので、以下に引用します。


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私の表現したいピアノ曲を演奏するのに、私の手の本数は少なすぎる。 それは私の責任ではないが、かといってそれを理由に実現を不可能だと決め、放棄するのは、表現者としての怠慢だと思った。

ゲノム (genome) は「ある生物をその生物足らしめるのに必須な遺伝情報」として定義される。ヒトであるA氏とB氏、両者の遺伝情報は完全に同一ではない。その差異が両者を区別させる個性として現出しているのだが、差異以外の同一性(ゲノム)が、両者を同種の"ヒト"足らしめている。逆にゲノムにわずかな違いでもあるならば、それは"ヒト以外のモノ"となる。

"ギター"という楽器の何をもって"ギター"と認識するのか? クラシック・ギター、フォーク・ギター、エレキ・ギター、MIDIギターなどなど様々なものを、我々は明らかに、形も、発音原理も、材質も、弦の数も、演奏方法も異なるにも関わらず、すべてを"ギター"という認識で捉えている。 伝統的なナイロン弦を指先で弾いて演奏し、大きな共鳴胴を有する木製楽器と、私が良く使用する金属弦をタッピングし、その弦振動を電磁気ピックアップで電気信号に変換し、共鳴胴はおろかヘッドすら持たないカーボングラファイトの一本作りの楽器、この両者の非常に大きな差異。にも拘らず、ともに"ギター"という同種の楽器足らしめるには、そこに"ギター・ゲノム"とでもいうべきモノが存在する。

ただのワイングラスがある。"食器"だ。ある意思を持った者が、その指先を水で濡らし、グラスの淵を撫で、澄んだ高音を発する。食器は"グラス・ハープ"という楽器に、そのゲノムを変態させた。 切手収集家にとって、"切手"は郵便料金先払いの道具ではなく、値千金の美術品となる。本来、戦場での殺人兵器であるはずの道具が、国宝の名刀となる。

これらゲノムの同一性も変態も、それを手にする者の意識によって生じる。

本作"Piano Genome"とは、すなわち「ピアノをピアノ足らしめるのに必須な遺伝情報」という意味だ。私の意思が、潜在・顕在する多種多用な差異を超えて、この作品を"ピアノ独奏曲"足らしめている。原初、ピアノは現在のものと大きく異なっていた。現在でもグランド・ピアノとアップライト・ピアノは、その体積からしても同一とは思えぬ形状をしているし、音域の違うピアノ、複数鍵盤を有するピアノ、連弾用に開発された特殊なピアノ、ハンマーによる振動を電気的に増幅するエレクトリック・ピアノなどなど、先のギターの例同様に、差異の底流 に"ピアノ・ゲノム"が存在する。

演奏家の情緒に直結した即興性、強いライブ感。有機的とも言うべき触覚。緩急と強弱の非常に大きなダイナミズム。それらを全面に押し出し、保ちながらも、演奏家の限界、つまりは腕の本数、指の本数を超越する演奏表現。私の表現したいライブ感は、複数の演奏家が顔色を伺いながら行う連弾によっては不可能であるし、同様に、一人の演奏家がオーバーダビングによって重ねて、擬似的に腕の本数を増やすにしても、それはやはり、時間差を持った連弾行為であることに変わりなく、どうしても私の表現したいものとは異なってしまう。あらかじめMIDI情報を書き込んだシーケンサーや、MAX/ MSPなど自動演奏プログラムでは、演奏家の情緒は完全に無視され、到底演奏不可能だ。「腕を4~10本持った一人の演奏家が、即興的にライブ演奏をおこなう事」その不可能性を実現させねば、私の表現したいピアノ独奏曲は生まれ得ない。

技術的な試行錯誤が必要だった。しかし、それを克服した時、この演奏が可能になった。プログラミングの具体的技術論についての言及は、作品解説の領域を逸脱するし、また表現そのものとは無縁の枝葉末節であるから、ここでは割愛するが、簡単にいうならば様々なMIDI信号の処理の仕方をPowerBook G4のキーボードのキーひとつひとつに割当てた。私はライブ会場で無伴奏ギター独奏を演奏する時と完全に同様に、PowerBook G4を激しく演奏した。その演奏を、一音の修正も無く、まったくありのままに記録したのが、本作だ。 (但し、マスタリング時に空間処理とイコライジングのみ施してある。)

演奏中、私の手元に在ったのはグランド・ピアノではなく、その形状が似ても似つかぬ1台のPowerBook G4だった。しかし、それは"ピアノ・ゲノム"を潜在させたPowerBook G4だった。

演奏終了後、まだ無題であったこのピアノ独奏曲を聴き、"Piano Genome"というタイトルを思いついて与えてくれた HARI嬢の慧眼に感謝する。

最後に。 表現者の強い意志は、その肉体の限界を超越すると、常々私は思っている。
JINMO(2006年6月記)

【編注:文中に"PowerBook G4"と出てきますが、それは2006年当時のままの記載であり、2012年現在は"MacBook Pro"を使用しています。】

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大量のピアノ・ゲノムと、ギター・ゲノムの轟響。
更に進化したJINMOのピアノ曲を、あなたの脳内の火星のマリネリス峡谷に吹き抜ける風と、突き刺す光とともに、お楽しみください!




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