『腕が2本しかないのは、私の責任ではない。左右の両手指が10本しかないのは、私の責任ではない。ギターの弦の本数も表現音域も、私の責任ではない。人々はそれを当たり前だという。…かといって、私にはそれらの現実をしょうがないと受け止め、それらがもたらす物理的制限の中だけに収まるように、私の脳内に響く即興演奏をコンパクトに圧縮変形させることは我慢ならない。もしある楽曲において、腕がもう1本必要となるならば、私はなんとしても腕を増やす。物理現実において不可能なら、情報現実において…。』(JINMO)
映画“マルホランド・ドライブ”に登場する幻の劇場“クラブ・シレンシオ”を演奏会場に想定し、
仮想肉体のJINMOが仮想的なエレクトリック・アコースティック・ギターを使用しての、即興的タッピング演奏の仮想ライブをおこなった、その仮想ライブ・アルバムが、“tar 01”(2008年2月20日リリース)、“tar 02”(2008年5月3日リリース)、“tar 03”(2008年6月7日リリース)、“tar 04”(2008年6月13日リリース)の4部作としてリリースされています。
本作は、その”tar”シリーズをさらに発展させたものと言えるでしょう。
先の4部作同様、ここでも、腕の本数、指の本数、ギター弦の本数、音域といった物理現実世界での制限は排除され、JINMOの脳内に響く情報現実上の即興演奏イメージを、忠実に現実の音響振動に変換しています。
先の4部作と大きく異なるのは、ここではもう一人のJINMOがドラマーとして参加し、ギタリストのJINMOとデュオで、仮想演奏会場で仮想楽器を仮想肉体でもって仮想演奏しているという点です。
また近作には珍しく、リズムや拍子が明確であり、テンポも一定で演奏されているのも興味深いです。
ちなみに本作に収録された13曲の、各曲ごとの拍子とテンポは以下の通りです。
- tarX 01 -
16分の23拍子、133.1790bpm
- tarX 02 -
16分の13拍子、166.9506bpm
- tarX 03 -
8分の9拍子、133.2930bpm
- tarX 04 -
16分の17拍子、126.4395bpm
- tarX 05 -
16分の9拍子、98.9862bpm
- tarX 06 -
8分の7拍子、125.3672bpm
- tarX 07 -
16分の11拍子、124.6819bpm
- tarX 08 -
16分の19拍子、126.7181bpm
- tarX 09 -
8分の11拍子、127.1871bpm
- tarX 10 -
16分の21拍子、133.2192bpm
- tarX 11 -
16分の25拍子、133.1187bpm
- tarX 12 -
8分の5拍子、170.1280bpm
- tarX 13 -
16分の15拍子、134.3284bpm
このように複雑で細かな拍子・テンポの上で、仮想ドラマー、仮想ギタリストの二人の仮想JINMO達は、実に生き生きと奔放に、そしてこれ以上ない息の合ったコンビネーションで、即興デュオ演奏を繰り広げます。
いわばこの二人は情報現実上の奏者であり、一般的な物理現実上の奏者には不可能な表現をぐいぐいと聴かせてくれますが、聴く側もまるで緊迫したライブ演奏を目の当たりにしたように、ぐいぐいと集中力を要求されていきます。
仮想会場での、二人の仮想JINMO達による仮想即興演奏会を、あなたの脳内に展開し、その臨場感をお楽しみください。
仮想即興演奏会の終了後は、あなたの仮想拍手もお忘れなく。
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ギター愛好家の方々にはもちろん、現代音楽、先端的テクノ、実験音楽をお好きな方々にもお薦めのアルバムです。
前作“Impromptu 140528”から僅かに27日。
通算第188作めのソロ・アルバム(Avant-attaqueからの第169作め)、リリースです。
もちろんCDと同等の、Apple ロスレス 44.1kHz 16bitの高音質です。
(Avant-attaque:HARI)